I. ブレインモルフィックコンピューティング
脳科学の知見に基づいた「ブレインモルフィックコンピューティングパラダイム」の創成を目指します。ブレインモルフィックハードウェアは、以下のような特徴を持ちます。
1)脳神経系の解剖学的、生理学的な構造や仕組みを模倣して情報を処理します。
2)物理化学的な「プロセス」による情報処理を行います。特に、
- アナログ回路により、脳神経系と同様、デバイスの物理的・動力学的性質を利用して計算を行います。
- 先端CMOSデバイスや新規ナノデバイスなどにより、生物物理をデバイス物理で模倣・再現します。
- 複雑性・複雑ダイナミクスを活用し、情報の豊かさと統一性を同時に実現します。
- 不確実性、変動、ノイズなどを積極的に利用します。
3) 最新の脳神経科学の知見、特に高次機能の知見を反映させます。
4) 進化的機能獲得や、身体的制約条件を考慮・活用します。
このブレインモルフィックコンピューティングハードウェアのパラダイムの下、脳の構造や情報処理様式に学んだ、高性能で効率的、柔軟でロバストな情報処理装置である「脳型コンピュータ」の実現を目標とします。
このためまず、物理的な高次元複雑ダイナミクスによる「プロセスによる情報処理」を、アナログ集積回路を核とした計算システムとして実装しています。そのため、大規模な脳型複雑系集積回路システムを、シナプスナノデバイスや先端アナログ/デジタルCMOS集積回路を用いたハイブリッドシステムとして実装する技術を開発しています。この際、脳における超並列的な無意識過程と論理的な意識過程の相互作用をヒントにしています(I-1.)。
また、身体性や、自己あるいは意識を持つ自律的な脳型コンピュータの実現を目指し、その第一歩として、「脳・身体総合体コンピューティング」の枠組みを提案しました(I-2.)。
さらに、現在では、半導体スピントロニクスデバイスであるアナログナノスピンメモリを、学習・記憶するシナプスとして用いたニューラルネットワーク集積回路の開発に挑戦しています(I-3.)。
I-1. ダイナミクス/アルゴリズム 無意識/意識 ハイブリッドコンピュータの開発と応用

電気通信研究所における共同プロジェクト研究(H29A21, H28/A08)による


I-2. 脳・身体総合総合体コンピューティングの基礎研究
User Dependent, Personalized Computer (UDPC)の実現を目指した
脳・身体総合体(Whole Organism)コンピューティング
UDPC:対象(使用者、環境など)に特化したパーソナルなコンピュータ
脳単体を実現するのではなく、環境や自身の状態を身体性として統合することにより、いわゆる「自己」としての内部状態を持つ、より高性能な脳型コンピュータの実現を目指します。
身体性(制約)導入の効果:
- 直接的、物理的なインターフェイスが可能
- センサー・アクチュエータと処理が一体化
- 情報の統合で 学習・記憶性能が向上
- 能動的な情報取得による能動的学習が可能
- 自分と自分以外の区別が可能(中核自己)
自ら環境に働きかけて学習できるので、応用範囲が格段に拡大
モバイルデバイス、ロボット、遠隔地(宇宙や深海など)探査、自動運転車、センサネットワーク、IoT、サイバーフィジカルシステム、見守りシステムなど。 | ![]() |
電気通信研究所における共同プロジェクト研究(H29A21)及び科研費(16K00340, 17H0693)による


I-3. ナノデバイスを用いた新しいニューロン・シナプス集積回路
エレクトロニクスでは、電子の電荷としての性質を活用して発展してきました。電子はスピンを伴っているため、磁石としての性質も併せ持ちます。近年、この磁石としての性質を活用した半導体ナノスピントロニクスデバイスの研究が進んでいます。特にナノスピンメモリ(STT-MRAM)は、電源を切っても記憶が消えない、アナログ的な記憶が可能、サイズがナノサイズなどの特徴を持っています。
我々は、このナノスピンメモリを、シナプス学習素子として活用した、新しいニューラルネットワーク回路の開発に取り組んでいます。これによれば、超低消費電力で超小型、さらに、自律的に学習するニューラルネットワークの構成が可能になると期待されています。


